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戦後スポーツヒーローベスト50

桃園書房 2006年

───── 昭和の大横綱 ─────

“ 第58代横綱 千代の富士 ”

文 青木青一郎


三日連続で吊り出されて負けた平幕時代

───── ウルフ・フィーバーが来る前からのファンが綴った千代の富士の成長物語 ─────

 プロレス好きだった僕の子ども時代、父親と一緒に仕方なく見る大相撲は、いつも退屈だった。
「寄り切りって、つまんないね」とか
「叩き込みって、ズルいね」などとよく文句を言っていた僕には「ジジ臭い、デブのスポーツ」だった。
 
それから数年後、高校生になった僕が偶然にテレビで見た大相撲。そこには、100キロにも満たない平幕の千代の富士がいた。
「幕内なのに、なんでこんなにガリガリなの?」と正直ビックリ。
その痩せた千代の富士は、輪島に軽々と吊り出されたあげく、とても悔し気に花道を返っていった。
「ちっちゃいくせに、えらい負けん気の強いヤツだなぁ」と僕は苦笑した。
次の日も彼は北の湖に吊り出され、さらにその次の日も貴ノ花に、三日連続で吊り出されて負けた。いくら相撲にうとい僕でも「なんじゃそりゃ?」である。圧倒的な弱さで負け続けて七連敗。僕は

「これじゃ、ただの弱い者イジメじゃねぇか」とさえ思ったのだ。
今では暴言でも、その場所の千代の富士はほんとに弱かった。いや、気の毒なくらい軽かったというべきか。そんな小型ゆえ、今後も強くなるとも思えなかった。
というのも、実は僕も子供の頃から小型だったので、その辛さを想像できたのだ。屈強で大型力士が居並ぶ幕内の中にポツンといる痩せた力士。その上、礼を重んじる国技の土俵で、分不相応ともとれるほど人目もはばからずに悔しがる負けん気の強さ。相撲界に面白いヤツを見つけた僕は
「よし、わかった、心配するな千代の富士。俺だけは応援してやろう」などと勝手に思い、バーチャルな後援会の会長になったのだ。それはまだ「ウルフフィーバー」と呼ばれる前のことだった。

 
 一人っきりの「バーチャル後援会」は地味にスタートした。まず図書館や本屋さんで本人のことを徹底調査。彼が北海道の漁師の家に生まれたこと。吊られることが多かったが、自身でも「吊り出し」や豪快な「投げ」で相手を負かす力量があったこと。なんと昭和30年代生まれの最初の関取だったこと。ついでに史上初の五文字四股名の関取だったこと。そして過去に何度も肩の脱臼をくり返していたことを知った。
また、地味な普及活動として、黒いペッタンコの学生カバンの裏に白マジックで、千社札のような文字で「千代の富士」と書き込んで通学もした。
その頃だ。彼は久々に脱臼して入院してしまった。

「来場所からは十両か…、時間的にテレビでは見られねぇな」と残念だった。でも、それ以上に残念だったのは本人で、書類の手違いで翌場所の公傷が認められなかったらしい。
そして、ここで持ち前の負けん気が出た。三日目から強行出場して勝ち越し、すぐに幕内に戻ってきたのだ。僕は
「よし!よくやった。ちっちゃいヤツは、人並み以上の気の強さがないと出世せんぞ」と、会長らしくおひねりの一つでもあげたい気分だった。

 
 千代の富士vs寺尾千代の富士の「負けん気」の軌跡は続いた。
平幕の身分で横綱輪島を激しく睨みつけては負け続け、一部の識者から叩かれもした。
一方、筋トレで体重を増やしながら番付も上昇。貴ノ花を引退に追い込んだ時も、涼し気に手刀を切っていた。
そしてアッという間に大関・横綱へと駆上がり、新鋭大乃国の優勝のチャンスを自らが潰して「これが横綱の相撲だ!」と言わんばかりに睨みつけてビビらせた。
弟弟子の北勝海との同点決戦では、人情もへったくれもなく稽古場でのように捩じ伏せた。
パシパシと突っ張りをくり出す寺尾に手を焼いた末、吊ってから土俵に叩き付けた時の館内の悲鳴。

「あの~、そこまでしろ、とは言ってないんですけど」と僕までビビってしまった。
横綱で九度の休場明けで六回優勝している不屈の根性。また、六度の決定戦を全て勝った集中力。千代の富士は戦後の大横綱になった。
ただ、「数字」として残した数々の大記録よりも、平幕時代から土俵上に残した「負けん気」の記憶も、僕はずっと語り継ぎたいと思う。
 
引退の日、千代の富士の顔は最初から歪んでいた。クシャクシャになりながらやっと言った
「体力の限界!」という一言。その後、涙をこらえるために数秒間、言葉が出なかった。僕は思った。
「あらら、千代の富士でも泣いちゃうのか?…、っていうか、後援会会長の俺よりも先に泣くな!ばかやろー!」。
僕はちょっとだけ嘘泣きをしたあと、たっぷりと酒を飲んで寝ちゃった。

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■出版物(エッセイ)


戦後スポーツヒーローベスト50

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『千代の富士』編
(あの大横綱が弱かった?)
(桃園書房)


大相撲熱血場所

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超私的!名・迷勝負十四番
(琴ノ若×朝青龍)
(千代の富士×栃赤城)
(千代の富士×枡田山)
(桃園書房)


万馬券が出た!

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