【 関根T弘さん/大工:52才 】
●今年、家内の実家で親族の十三回忌の法事があった。そしてわしは、このとき『むじゃ様』という不思議なものに会った。 ●家内の実家は青森県上北郡にある小さな町で、小川原湖というきれいな湖の近くだった。法事は家内の叔母にあたる人の十三回忌で、親類らが本家に集まったのだ。この地域では、十三回忌をとくに丁重とする慣習があって、大工のわしも身綺麗にして一家で訪れたわけだ。わしと家内と22歳の娘との三人で、埼玉から自家用車で青森に向かっていたときのこと。車中で家内がぼそっと言った。 「今年は『むじゃ様』いらっしゃるかしら…」と。 「あ? だれだその『むじゃ様』って?」と、わしは聞いた。 「うちの方ではね、夢の蛇と書いて『むじゃ様』って言うの」 ●家内が言う話はこうだった。 家内の実家のごく狭い一帯では、鎮守様として蛇が祀(まつ)られているという。その蛇とは薄紫色の白っぽい大蛇で、何年か毎に誰かの夢に現れてお告げを授けるというのだ。そしてその蛇が現れるタイミングが、どこの家でも十三回忌の法事にみなが集結した晩なのだそうだ。さらにそのお告げとは、その人の生死に関わることで、つまり次に死を迎えそうな人の夢に出てくるという伝説らしい。わしはそんな迷信のような事は信じられなかったんで 「ほんとか、それ、おまえも信じてんのか?」と聞いてみた。すると家内は、 「あたしだってちっちゃい頃は信じてたけど、今はただの民話だと思ってるわよ」と、不機嫌そうに言った。後ろの席で娘も半信半疑で聞いていた。 ●高速道路を降りてから県道を走り、家内の実家までわずかな距離となったころ、家内が言った。 「ちょっとだけ、寄って行きたい所があるんだけど」と。 家内の道案内で細い林道を通り、すぐに小さな森の中にたどり着いた。そこには、古びた鳥居と小さな祠(ほこら)のような物が建っていた。これがこの地域の鎮守様らしい。家内は数秒手を合わせ 「もういいわ」と言ったので、わしらはそこを立ち去った。 ●ひと通りの法事が済んでから、わしは家内の兄と世間話をしながら酒を飲んだ。家内から 「おとうさん、最近はあんまり飲めないんだから、もうそのへんでやめときな」とたしなめられたが、酒好きの義兄のすすめでかなりの量の酒を飲んだ。わしはすっかり酔ってしまい、奥の部屋で寝ることにした。翌朝、二日酔いで目覚めたわしに、家内は言った。 「おとうさん、なんか悪い夢でも見てたの? うなされていたようだけど…」 心配そうな顔をしている家内を見て、わしはハッとした。なぜなら、わしはその晩にあの大蛇が夢に出てきたことを思い出したからだ。 ●夢の内容はこうだ。女の低い声のような感じで、誰かがわしの名前を呼んでいた。 「タケヒロ(仮名)~、タケヒロ~」と。するとわしは、昨日見たあの祠(ほこら)の前にいることに気がついた。わしの名前を呼んでいたのは、家内が言っていたような薄紫の白い大蛇で、鳥居にグルグルと巻き付いてわしを睨んでいた。そしてその大蛇が言った。 「次はおまえだ~」と。わしは慌てて、 「そ、そんなのは嘘だ!」と言い返すと、また大蛇が言った。 「信じられぬか? ではひとつ小さなお告げを授けよう…、おまえの喪服を調べてみよ。そして、わたしのちからを確かめよ」と ●わしは顔を洗ってから、昨日着ていた喪服のすべてのポケットを調べてみた。すると、お守りが出てきたのだ。そのお守りは、わしが子どもの頃に母からもらった物で、肌身はなさず、ずっと身に付けていた物だ。ふだん大工仕事をしてるときも、腹巻きの中に入れておいた大切なお守りだった。それがここ半月ほど前から、どこかになくしてしまっていたのだ。ずいぶん探したが決して見つからなかったお守りだった。わしはこのお守りを喪服にしまった記憶がない。だが、あの『むじゃ様』の小さなお告げのとおり、こうして見つかったのも事実だ。すると『むじゃ様』というのは、本当に不思議なちからを持っているのか? ●わしは少し迷ったが、自宅に帰る途中、車中で家内と娘に『むじゃ様』の夢を見たことを話してみた。すると家内は、 「なにを本気にしてるのよ、おとうさんらしくもない」と笑われ、娘にも、 「おとうさん、もしかして、次に死ぬのは自分だとか思っちゃったの?」とからかわれ、まったく信用されなかった。 ●その後、わしは『むじゃ様』のお告げが気になって、めったに行かない病因で検査を受けてみた。すると、胃に潰瘍ができていると診断されたのだ。さいわい、悪性ではなく早期の発見でもあったため「きちんと直る」と医者は診断した。 ●ダーク・アサクサさん、あの『むじゃ様』のお告げでは「次はおまえだ~」と言われたが、逆に病気が発見できたというのは、どういうことなんだろうか? それとも今後、事故か何かで死ぬんだろうか? よきアドバイスを。 .
【 ダーク・アサクサの見解 】
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イラスト:青木青一郎