[ 新・平成の百物語 ] ~ 99%オチのある新タイプの短編集 ~

「記憶から消えた部員」

【 井口D助さん/会社員:24才 】

●これは俺が社会人になった昨年に体験した、すごく奇妙な話だ。

●俺はいま、東京都港区にある保険会社に勤めている。ある日仕事が終わって駅へ歩いていたとき、後ろから誰かに肩をトントンと叩かれた。振り向いた俺は、少しだけ驚いた。それは二人組の男で、しかも顔見知りだったからだ。その二人組の男というのは、故郷の神奈川県立の高校を卒業して以来、久しぶりに会った友人だった。正確にいえば、高校時代の大半を費やした柔道部の仲間だ。(※便宜上、彼ら二人の名前を、吉田と中根という仮名で話を続ける) 彼らも偶然俺を見つけて驚いているようで、顔を見合わせていたあと、吉田が中根に言った。
「おい、ちょうどよかった、あれ、すぐに持って来いよ」と。すると中根が
「わかった、じゃあ、そこの居酒屋で待っててくれ」と言うなり、走ってどこかに行ってしまった。俺は何の事かと少し混乱しながらも、誘われるまま駅前の大衆居酒屋に入った。そして、そこでとても不気味な写真を見ることになるのだ。

●居酒屋に入ってテーブルにつくと、懐かしい話も早々に吉田が言い出した。
「井口、あれ、二年くらい前に、やーっと見つかったんだよ」と。
「え? あれって何だ?」
「何って? 井口… おまえ、卒業間近にずっと探してたじゃねぇか」
「え? 何? 何? 何だ?」
「ん? まぁ、いいや。とにかく、中根がいますぐに持ってくるから。すぐ近くの会社から取ってくるだけだし」と、その話を中断させ、吉田はおしぼりで顔を拭いたあと、ビールやらつまみやらを注文しはじめた。混乱している俺をよそに吉田は、卒業後、中根と同じ大学に入り、現在はこの近所の同じ会社で働いていると近況を話してきた。その間、10分くらいだったろうか、中根が戻ってきた。とりあえず三人で乾杯したあと、中根がすぐにカバンの中から一枚の写真を取り出し、テーブルの上に置いた。それは、高校時代の我々柔道部員たちが写っている写真だった。
「ほれ、これだろ? 井口がさがしていたやつ」と、中根が俺の顔を覗き込んだ。俺はさっきから訳がわからず、
「おい、どういうことか、ちゃんと説明してくれよ」と、苛立ってしまった。すると二人はキツネにつままれたような顔をして
「おまえ、ほんとに憶えてないの?」と、吉田が聞き返してきたのだ。吉田は続けた。
「ほら、よく見なよ、写ってるだろ?」
「だから、何が?」
「高柳(仮名)がだよ」
「高柳って?」
 
不気味な話「井口、おまえいい加減にしてくれよ。おまえが探してくれって言ったんじゃねぇか、高柳が写っている最後の写真を」
吉田の言っていることがさっぱり理解できていない俺を見て、今度は中根が指さして
「ほら、前の列の一番左にいるだろ? 高柳が。この写真を探していたんだろ?」と、真剣な顔で聞いてきた。俺は中根が指さした「高柳」という部員の顔をよくよく確認したが、まったく知らない顔だった。俺はますます混乱してきて、
「俺、ふざけているわけじゃないんだ。おまえらの言ってることが、まったくわからないんだけど、頼むから詳しく教えてくれよ」と二人に懇願した。すると吉田がジョッキに残っていたビールを一気に飲み干したあと、静かに言った。
「よ~、中根…、井口はほんとに記憶を無くしてるのかもしれないな…」と。
吉田は続けた。
「この写真は卒業アルバムで3年生の柔道部員を紹介するために撮ったやつだろ? でも井口も知ってるとおり、実際にアルバムに使われた写真は、高柳が写っていない写真だよな」
俺はその言葉で、ある事実に気がついた。俺たち3年生の柔道部員は確か全員で六人だったはず。しかし、この写真には、俺が知らない「高柳」という部員を含めた七人が写っている。
また、吉田が言った。
「あの頃の井口はさ、体格も良かったし、実際に実力もあったしな…」と、意味深なことを言いはじめた。柔道部では主将だった俺だが、今から思い返すと、リーダーというより、ただ我がままなボス的存在だったと思う。吉田は続けた。
「卒業間近にさ、井口があれほど真剣に探してくれって頼むもんだから、俺たちもいろんな所を探し回って、二年くらい前にやっとみつけたんだぜ、この写真。そのうち、同窓会でも開いたとき、井口に渡してやろうと思っていたんだけど、中根が『井口は同窓会には来ないだろう』と言うしさ…。とりあえず会社の机にしまってあったんだ。」
「おいおい、中根、なんで俺は同窓会には来ないだろうなんて言ったんだ?」
「え? だってあんときの井口の様子を見ていたら、同窓会なんて来られるような心境じゃないだろうって、誰だって思ったんじゃないか?」
短い沈黙のあと、二人はそそくさと身支度を始め、
「これ、お前に渡したからな」と吉田が言ったあと、中根が、
「ちゃんと供養してやれよ」と言った。
身動きの取れずにいる俺をしり目に、二人は席を立ち、会計を済ませ始めていた。すると中根が何かを思い出したような顔つきで、黙って座っていた俺の横に立ち、
「そういえば、今日はちょうど高柳の命日じゃなかったか?」と言って立ち去ったのだ。

●ダーク・アサクサさん… 俺は、この高柳という部員をどうして憶えていないんでだろうか? そしてなぜ憶えてもいない男の写った写真を探していたんだろうか? 俺はいったい、この高柳に何をしたんだろうか? 昨年のその日以来、俺は吉田と中根を探しているが、連絡先を聞いてなかったので会えてない。二人の実家に聞いてみようかとも考えたが、それはできないような気がしてならないのだ。そしていま現在、俺は精神的にも健康的にも、まいっている。

.

【 ダーク・アサクサの見解 】

ダーク浅草

■確かに不気味な話に聞こえますが、私の見解はこうです。

あなたが自身、ご自分でもおっしゃっていますが、柔道部で主将をしていたあなたは『リーダーというより、ただ我がままなボス的存在だった』んではないですか? 正直、ずいぶんイジメとかもしたのでしょう。イジメた方は忘れていても、イジメられた方はいつまでも憶えているもんですよ。それが、いまだにわかってないんですよ、あなたは。何がわかっていないのか。それを説明しましょう。

■いいですか、そもそも高柳なんていう部員はいなかったんです。吉田さんと中根さんの、まったくの作り話なんです。だからその写真をあなたが探していたというのも、セットのウソなんです。では、その写真に写っている高柳という部員と顔見知りが並んだ写真はなんなのか? そもそもそんな写真、いまどきはコンピュータ・グラフィックでどうにでも作れるんですよ。それだけの物です。しかし、あなたは「もしかして、俺が高柳をイジメて、自殺においこんでしまったんじゃないか?…」と恐れませんでしたか? あまりにも懺悔の気持ちに耐えられず、自らがその記憶を抹消してしまったのではないか…、 とも考えなかったですか? そうこうしているうちに、精神的に落ち込み、ストレスで肉体もまいってしまったということです。

つまりこの出来事は復讐なんです。吉田さんと中根さんの。偶然に出会ったように装い、そんな合成写真や作り話を用意してまで、あなたに仕返しをしたかったんでしょう。高校を卒業してから4~5年経ったのちまで待って、巧妙に仕組まれた復讐だったんですよ。ここまで言えばあなたも思い出したでしょう。柔道部で一番イジメていたのは、吉田さんと中根さんだったことを。

《 終わり 》

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