[ 新・平成の百物語 ] ~ 99%までは解説できる短編集 ~

「絶望岬の五七五」

【 嶋田I郎さん/自営業:42才 】

●日本海に面した私の町には『雪房岬(せつぼうみさき)』という断崖の岬があります。そこは観光的な面ではなく、別なことで有名になっています。それは昔からそこで飛び降り自殺が年に数件は発生し続けていたからです。人生に絶望した人たちが訪れる岬。いつしか『絶望岬』という名の自殺の名所になってしまいました。これはそこで起こった最近の話です。
 
ネタっぽい話●やがて『絶望岬』には自殺者の幽霊が出るとか、あたり一帯が呪われているとか、悪い噂がささやかれるようになりました。地元の自治体でも、このありがたくない名所をなんとかしようと対策会議を開きました。町長を中心に地元の盟主や有志、識者たちが集まり、私もその会議に出席した者のひとりです。数日間の協議の結果、
「自殺を思いとどまらせるためには、適切な『言葉』が有効であろう」ということになりました。そして、自殺志願者に一番有効な『言葉』を町民たちから公募したのです。
 
●たくさんの『言葉』が集まりました。昔から言い古された
「死に急ぐな」とか「死ぬ気なら何でもできる」といった『いさめ型』の言葉や、
「命を大切に」とか「私が相談に乗りましょう」といった『温情派』、また、
「海水は冷たいので風邪をひくぞ」といったユーモアで助けようとするものまでありました。そして最終的に決まったものがこれでした。

 
知らぬのか ここで死んだら 地獄行き
 
●人生に絶望して『絶望岬』を訪れた人たち。とはいえ「死んでもなお地獄が待っている」ということを望む者はいないだろう、という案でした。数日後、私たちは『絶望岬』の突端にこの言葉を書いた立て札を、自殺志願者に見えるように立てました。すると驚いたことに、それからこの岬での自殺者はひとりもいなくなったのです。可能性としては、別の場所で自殺をしたかもしれません。ただ、とにかく『絶望岬』での飛び降り自殺はなくなりました。私たちの対策は、大成功だったのです。
 
●しかしです。今年の秋口になって、再び『絶望岬』での自殺の連鎖が始まりました。私たちは立て札がなくなってしまったのかと、確認に行ってみました。立て札は同じ場所に同じ言葉で立ててありました。ただ、残念なことに誰かが立て札の裏側にイタズラ書きをしていたのです。
 
●ダーク・アサクサさん、あなたならどんなイタズラ書きだったか、きっとお分かりでしょうね。どうか良い解決策をお願いします。

 

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【 ダーク・アサクサの見解 】

ダーク浅草
 
■嶋田さん。今回は相談や質問といったことではなく、私に対する「なぞなぞ」ですね? まぁ、このての話はあまりのりたくはないのですが、思うところもあるのでおつき合いしましょう。
 
■なぞなぞの答え、つまり立て札の裏側にどんなイタズラ書きがあったのか。それは推理はせず、少々面倒でしたが、当クラブのアルバイトの銀蛭(ぎんびる)くんに直接その岬に行って、確認させてもらいました。書かれていた言葉とはこうでしたね。
銀蛭
 
「地獄とは 恨み晴らせる 黄泉(よみ)の国」
 
■イタズラ書きの意味は「地獄というあの世では、この世の人間に復讐できるぞ」ということですが、もちろんデタラメな話です。立て札を立てた当初は「地獄行き」という死後の世界に決意がゆらいだ自殺志願者たちでしたが、このイタズラ書きはさらに強烈な言葉だったのでしょう。つまり、「自分の人生はもう終わりだ…」と絶望して岬を訪れた人たちの中には、「こうなったのも、あいつのせいだ!」と強い恨みを抱いたまま死のうとしている人もいたはずです。そして決意したのです。「憎いやつに復讐をするため、あえて地獄へ行こう」と…。
 
■ところで嶋田さん。このお話はたぶんネタなんでしょう? 私が銀蛭(ぎんびる)くんに見に行かせたというのもジョークです。銀蛭(ぎんびる)くんはファイリング専門の内勤ですから。でも、もし実話であれば、一刻も早くそのイタズラ書きは消してください。おふざけが過ぎると、あなた自身に災いが生じますよ。
 
《 終わり 》

イラスト:青木青一郎

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Illustration:青木青一郎
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