[ 新・平成の百物語 ] ~ 99%オチのある新タイプの短編集 ~

「20年人形」

【 曽根K吾さん/大学生:20才 】

●僕はいま、地元の神奈川の大学に通っています。最近、両親から
「将来、どんな仕事に就くんだ?」と、よくきかれます。というのも、僕はまだ自分のやりたい仕事について、はっきりとしていないからです。でもそんなとき、僕が思い出すのは、おじいちゃんがくれた不思議な人形のことです。

●父の実家は埼玉県で、今でいう『さいたま市』ですが、僕が生まれた頃は『岩槻市』でした。人形の町として有名なだけあって、おじいちゃんの家も代々人形作りの職人をしています。ただ、唯一の男子である父は、跡を継がずに機械系の企業に就職しました。毎年おじいちゃんの家に遊びに行くたびに、
「うちもわしの代で終わりか…」と、おじいちゃんは言っていました。

●そんなおじいちゃんと、僕はある約束をしています。それは僕が成人になるまで、毎年五月五日にはおじいちゃん家で一緒に写真を撮るということです。そしてそのときには決まって人形を持って撮るのです。その人形とは、おじいちゃんが僕のために作ってくれた「金太郎」に似せた五月人形です。その習慣は、僕が一歳の時から始まっていて、今年でとうとう20回目となりました。
 
不思議な話●小さい頃から僕は、五月五日が楽しみでした。優しいおじいちゃんと一緒に菖蒲湯に入ったり、おばあちゃんが作った柏餅を食べたりして過ごしたからです。ただ、僕はあることに気づき始めていました。
それはあの「金太郎」人形のことでした。おじいちゃんは人形を僕にくれたとはいえ、ふだん会えない僕の代わりに自分の部屋に大事に飾っていたのです。僕が「持って帰る」とダダをこねても、決して持ち帰らせてはくれませんでした。その「金太郎」人形に、ある日僕は不思議な違和感を感じたことがありました。

●毎年撮り続けたおじいちゃんとの写真を、部屋で並べて見ていたときのことです。当時僕は十六歳でした。僕の年齢と共に徐々に古くなっていく「金太郎」人形が、どこか変に見えたのです。よく観察してみようと、一歳のときと十六歳のときの写真を見比べました。するとはっきり分かったのです。一歳のときに比べて「金太郎」人形の髪の毛が、10cm以上も伸びていたことに。僕はそのことを両親に話しました。すると父も母も「確かに伸びているように見える」と不思議がっていました。

●翌年の五月五日。僕はおじいちゃんに髪の毛のことをきいてみました。するとおじいちゃんは、いつものように部屋から「金太郎」人形を出してきて、優しく撫でながら言いました。
「そうかぁ、この人形もおまえと一緒に成長してるんだなぁ」と。僕は、
「でも、そんなことあるわけないじゃない」と言うと、おじいちゃんは教えてくれました。
「いいや、あるんだよ、こうして気持ちを込めて作り上げた人形には、命さえも宿るんだよ。だからこそ、わしは子どもたちの一生懸命に作っているんだよ」と。
その後、父と母と僕は、人形の髪の毛の生え際や、接着部分を何度も調べてみました。それなりに知識のある父も
「どう見ても、作ったあとに手を加えた形跡はない」と、判断していました。

●僕と共に20年の歳を経て、すっかり古くなってしまった「金太郎」人形は、いま僕の手元にあります。おじいちゃんが「成人の証に持っていなさい」とくれたのです。そのおじいちゃんは「もうそろそろ職人を引退しようか」などと言っています。いまだに将来の仕事が見つけられない僕と比べて、おじいちゃんの『人形職人』としての一生は、とても素敵な人生のように思えるようになりました。

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【 ダーク・アサクサの見解 】

ダーク浅草

■K吾さん、あなたは「人形の髪の毛が毎年伸びている不思議さ」をお話してくれましたが、あなた自身は決して気味悪がってはいませんね。むしろ、そんな不思議な人形を作ったあなたのおじいさんを尊敬しているのでは? それでいいんですよ。ただ、それだけではあなたも気になるでしょうから、なぜ「髪の毛が伸びるのか」については、しっかりと解説いたしましょう。

■人形の髪の毛が伸びるという話は、日本の各地で伝わっていることはご存知でしょうか。北海道の萬念寺にある『お菊人形』や、山梨県の東漸寺の『木目込み人形』、そのほか奈良県や大分県などにもそうした人形が存在しています。そしていまもって、科学では検証しきれない不思議な現象である、と結論付けられているのです。さて、今回のK吾さんのおじいさんが作った「金太郎」人形も、その類いの物かといえば、私は「違うでしょう」と考えています。ま、いつものように、あくまでも私個人の推測ですが聞いてください。

■おじいさんの家は、代々人形職人として伝統芸を受け継いできました。しかし、唯一の男子であるあなたのお父さんは、違う道へ進んでしまった。おじいさんは、それを認めてあげた反面、心の中では残念だったのでしょう。わが子がだめでも、できることなら孫のあなたに引き継いで欲しかったのです。ですからそんな「不思議な人形」のエピソードを作り上げたのです。あなたに「人形職人の心意気」を伝えたいがためにです。でも、これだけではあなたの疑問は残るでしょう。おとうさんも調べた結果、「どう見ても、作ったあとに手を加えた形跡はない」と判断されたんですからね。では、トリックの謎解きをしましょう。

■おじいさんは「金太郎」人形に、あとから手を加えたりはしていません。ではなぜ髪の毛が毎年伸びていたのか? ここが盲点なのです。じつはおじいさんは、あなたが生まれて最初の五月五日の端午の節供には、すでに「金太郎」人形を20体作っていたのです。そして髪の毛の長さを少しずつ違う長さにしておき、一番短い人形から取り出して記念撮影をしていたのです。そうすれば確かに毎年髪の毛が伸びているように見えますよね。ですから成人になるまで、あなたに人形を渡さなかったのもうなずけるでしょう。また、20年前に一緒に作った人形ですから、どの人形も同じように古びていくのは当然です。まぁ、一度に20体もの人形を手にできること事体、人形職人ならではの贅沢なお遊びとも言えますねぇ。

■あなたが大学を卒業するまで、あと約二年…。どんな仕事に就きたいのか。おじいさんのためにも、もう一度じっくり考えてみてください。

《 終わり 》

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Illustration:Aoki seiichirou
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