【 相沢S美さん/主婦:43才 】
●以前私は、小さな町の小さなスーパーマーケットで、レジ打ちのパートタイマーをして働いていました。これはそこで出会ったひとりの不思議な少年についてのお話です。 ●11月のある平日の午後でした。小学2~3生くらいの男の子がランドセル姿のまま、私の勤めていたスーパーのレジにある商品を持ってきたのです。その子が買おうとした物は、ビニール袋に入った1キロ100円の食塩だけでした。そしてその子は黙ってポケットから100円玉を出すと、静かに立ち去りました。 その町は小さな町でしたので、私は「見かけない子だな…」と思い、気にとめていたんです。するとその子は三日後にまたきて、前と同じ食塩一袋だけを買っていき、その三日後にもまた食塩を買って帰りました。そして不思議なことに、その子は『三日置きに塩を買う』という行為を、まる一ヶ月間続けたのです。 「一体、それほどの塩を、何に使うんだろう?」と、気になって仕方ありませんでしたが、その子に聞くことはありませんでした。いえ、聞けなかったというのが、正直なところでしょうか。なぜならその子には、この「塩を買う」という行為について、一切の質問をさせないような気配を感じたからです。 ●こうしてまる一ヶ月間が過ぎた頃、その子はパッタリと来なくなりました。やがて一週間、二週間と日がたち、クリスマスも間近かになった時期です。 「あの子、もう来ないのかな~」と、私は何となく気になっていました。 ●私の働いていた小さなスーパーマーケットでも、クリスマス・バーゲンという行事があり、それが終わると、すぐにお正月用の売り出しの準備に取りかかったものです。お餅やおせち料理や、ふだんの三倍以上もの生鮮食品が店内を賑わせました。 そんな、年も押しつまった大晦日の夕方、久しぶりにあの子がやってきたのです。以前と同じように食塩一袋を買いにきたのかと思ったら、その日は違いました。混雑したレジにきたその子が持っていたのは、おがくずがタップリと付いた一匹の『活毛ガニ』。値段は一番安い980円の商品です。そこで私は、その子の声を初めて聞くことになりました。 「おばちゃん、このカニ、生きているんだよね?」 私は戸惑いながらも 「生きたまま運ばれてきてるから、新鮮なのよ」と答えると、その言葉に納得したのかお金を払うと小走りに去っていきました。 ●翌日は元日で、私のスーパーマーケットも二日間のお休みです。私は、午前中に配達された年賀状に目を通したあと、午後からは主人と中学一年生の娘との家族三人で、近所の八幡様に初詣に出かけました。 八幡様の入り口付近まで歩いて行くと、小学生らしき7~8人の子供たちが集まっていて、何やら「わーわー」と騒いでいました。 そこは天神池という名の、さほど大きくもない深い水たまりのような場所でした。春には、オタマジャクシやザリガニや、ヤゴ、ミズカマキリ、ゲンゴロウなども見かけることがあり、子供たちの遊び場でした。 そして、子供たちが騒いでいるその天神池を通りかかったとき、私は「はっ」としました。一匹の毛ガニがプカプカと、水面に浮いていたのです。私は、昨日あの子が買っていった毛ガニだと、直感しました。 「もしや、あの子がこの池に…」と心配しましたが、騒いでいる子供たちの話を伺っていると、今朝、あの子がこの天神池に投げ込んでいったようでした。 ●いったい、どういうことなのか? 私には分かりませんでした。ただ、その時、天神池の横のしげみ付近に、何か落ちている物を見つけました。それは、私の勤めるスーパーマーケットのレジ袋で、その中にはあの食塩の、丸められた紙袋がたくさん入っていたのです。 それから間もなく、私たち一家は遠くへ引っ越してしまい、もうあの子には会えません。 ●ダーク・アサクサさんは、どう思いますか? あの子はどうして天神池に毛ガニを投げていったんでしょうか? ただのイタズラだったとは思えないのですが。 .
【 ダーク・アサクサの見解 】
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イラスト:青木青一郎