[ 新・平成の百物語 ] ~ 99%までは解説できる短編集 ~

「江戸川の怪物」

【 高橋N人さん/中学一年生:13才 】

●ダーク・アサクサさん、僕は千葉県に住んでいる中学一年生です。今年僕と友だちは、川で怪物のような生き物を見たんです。そのときの事についてレポートします。
 
●僕のクラスメイトに、小学校の時から仲のいい智樹(ともき)というやつがいます。その智樹と僕の二人で、日曜日に江戸川に釣りに行ったときのことでした。僕らが釣りという趣味を始めたのは中学生になってからで、まだまだ初心者です。だから大した知識もなく、道具も100円ショップで揃えた物でした。釣り場となる江戸川の土手に行くには、家から自転車で10分くらいで、そこから土手沿いの遊歩道を下流に向かって走りました。サイクリング気分でゆっくりと15分ほど走ると、やはり釣りをしている大人のグループがちらほら見えました。
「あの橋の下あたりでどうだ?」
智樹が指さした橋の近くで、自転車を止めました。僕らはどういうポイントが釣れるのか、よく分からないまま場所決めをしました。土手を下りて釣りの準備をすますと、互いに少し離れた場所に座ってエサをつけ始めました。
 
●釣りを始めて約20分位経ったときです。離れていた智樹がやってきて、
「ぜ~んぜん釣れねぇ~よ…。おまえ釣れた?」ときいてきました。僕らは一匹も釣れないどころか、浮きがピクリと動くこともなかったんです。智樹は
「なぁ、場所変えない?」というので、
「そうだな~、少し移動してみるか」と言って、僕は道具をまとめようとしました。すると川面の方から「バッシャン!」という大きな音が聞こえたのです。僕らあわてて振り向くと、波紋ができている部分がありました。橋の上を見ると人や車はいません。だから上から何かが落ちてできた波紋ではないと分かりました。
「魚が跳ねたんじゃねぇ~の?」と、智樹はやや興奮気味に言いました。僕も
「だよな…、けど、魚にしちゃ、けっこうデカくねぇ?」と少し疑問に思っていました。僕らはとりあえず移動はやめて、智樹とそこで釣りを続けました。
 
ちっちゃい話●それからさらに約15分位経ちました。僕らは智樹のお母さんが作ってくれたサンドイッチを食べながら、ボォ~っと川面を見ていました。すると智樹が急に
「やっぱ、ここじゃ釣れねぇよ!」と言って、食べかけのサンドイッチを川に投げ込んだのです。そのときでした。そのサンドイッチに近づいてくる魚の影が、水中に見えました。
「なんじゃ、ありゃ?」と智樹が指さすその魚の影は、異様にデカかったんです。そしてその魚は水中から勢いよく飛び出て、大きな口を開けてサンドイッチを食べました。その大きさは、僕らよりも大きかったと思います。本当です。僕はビックリして、「いまの、あれ、魚?」と智樹に聞いたんですが、智樹はすっかり固まっていました。すると、さっきの魚がもう一度飛び出してきました。しかも今度はさっきよりも僕らに近いところで。僕ら恐くなって自転車で逃げました。
 
●この話を学校で他のクラスメイトに話しても、なかなか信じてはもらえません。でも、僕ら人間よりもデカい魚が、江戸川にいたのは本当なんです。僕と智樹は、二人でその魚に名前を付けました。『ネッシー』とか『クッシー』とかの名前をもじって、名付けて『エドガワシー』です。ダーク・アサクサさんはこの話、信じてもらえますか?

 

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【 ダーク・アサクサの見解 】

ダーク浅草
 
■N人くん、私はもちろん信じますよ。というより、その魚の正体そのものをすでに知っていますから(笑)。では、解説・・・というか、紹介というか、まぁ、ご説明いたしましょう。
 
■あなたたちが見たその魚。人間よりも大きかったと言いましたが、確かにその大きさにも成長する種類の魚ですね。2メートル近い大きさのものが釣られたという事実もありますよ。これは通称『アオウオ』という名前で、淡水魚としては国内最大級のコイ科の大魚なんですよ。そもそも戦時中に食用として、中国大陸から持ち込まれた大魚だと伝わっています。それでも故郷の川とは環境が違うため、なかなか増殖はしなかったらしいんですがね。唯一、産卵や棲息に適合できたのが、利根川や江戸川の下流付近や霞ヶ浦といった場所だったようですよ。理由は大陸の河川に似た緩やかな流れにあるのでは、と推測されているんですね~。まぁ、めったに見ることも釣ることもないので、ラッキーな体験だったと喜んだらいかがですか?
 
■最後に、あなたたちが付けた『エドガワシー』という愛称ですが、これはいかがでしょう? ちょっとベタですね(笑) しかも、すでにその近辺では『エディー』という名前で呼ばれているようですので、とりあえずそう呼んであげてください。そして、もし今後そのエディーを見事釣り上げたりしたら、またレポートをお願いしますね。
 
《 終わり 》

イラスト:青木青一郎

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Illustration:青木青一郎
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